神戸製鋼所の不正問題を、内情を知っている人間が分析してみた
いろいろ品質不具合を起こしている神戸製鋼所。
詳しくは言えないのですが、この会社の内情はある程度知っています。
そんな私が、不祥事がなんで発生しちゃったかを分析してみました。
ありきたりな一般論しか言わないジャーナリストの記事にうんざりな方
ぜひご覧ください
そもそも神戸製鋼所って、どんな会社?
大きく分けて3つの事業をおこなっている複合型経営の会社です。
とある従業員の方は「中小企業連合」とも言ってます。
先に述べておきますが、社員のほとんどはデータ・技術に対してプライドを持っており、不正するなんてありえないと思っているようです。
金属素形材
鉄鋼・アルミ・銅・チタンといった金属を、原料から色々成分を調整して、素形材(ながーい板・棒)を作ってメーカーに販売してます。
あと、この素形材をグループ会社が部品・製品に加工して販売したりしてます。
重工業
工場で使われる機械や船の部品など、大きな工業製品を作ってます。
比較的身近な製品としては油圧ショベルでしょうか。
電力
電力自由化に合わせて発電事業もやってます。
金属の原料を材料にすると大量の電気が必要になるので、昔から発電もやってたりします。
どんな不正があったのか?
不正事案が多岐にあり、把握するのも大変です。
代表的なものは最初に報道された
アルミで強度をちゃんとチェックせずに出荷していたことでしょう。
個別に説明するのは数が多すぎるので、大体でいうと、
お客さんと約束した寸法・強度を守っていなかったり、
約束した方法で測っていなかったりといった内容です。
表面的な原因は何か?
これは、お客様との約束を自分達の都合で守らなかった担当者。
そして、それを止めることができなかったスタッフ、管理職。
表面的な原因は間違いなくこれでしょう。
おそらくやっちまった人は
「前の担当者がそうやっていたから、、、」
「納期が最優先で、他のことを考える余裕がなかった、、、」
と思っていることでしょう。
あとは、「代替試験でもそんなに問題ないし、、、」もあったかと思います。
例えば、金属の引張り強度というのは、金属の硬さで大体はわかります。
なので、金属に詳しいからこそ、この代替試験でそんなに問題ないと感じてしまったのかもしれません。
また、業界によらず、材料強度を計測する試験は、あらゆる材料でおこなわれています。
その中で、想定していない結果をエラーデータとして間引くことは、珍しくない話です。
実は、家に使われてる木材の強度データも怪しかったりします、、、
とは言っても、お客さんとの約束を守らなかったのはダメですね。
「誠実な行動をする」
これに尽きます。
組織としての原因は何か?
これは3つあります。
組織原因1:短中期的で、目に見える費用対効果でしか考えれなかったスタッフ・管理職・経営者
ニュースを見て、
「今時、手書きの資料で管理してるの!?」
と、感じ方もいるかと思います。
データなんて手書きせずに、システムで一気に管理した方が効率的で楽なはずなのに・・・と思うことでしょう。
でも、そう簡単にいかないところもあるんです。
もし、自動でデータ入力するシステムに入れ替えようとすると、数億円規模の設備投資になります。
いかんせん設備や、その関連システムが大きく、古いので入れ替えが大変なんです。
一方、投資効果で得られるのは、1、2人分の仕事が減る程度なので、多く見積もっても年間4千万円といったとことでしょうか。
数億円で設備を入れても多く見積もって年間4千万円のコストしか減らせないとなると、表面的に見ればNOの判断をするでしょう。
「いやいや、長期的に見たら回収できるやん!」と感じた方。
ぜひ、そういう人に上に立って欲しいもんです。
経営者は任期が数年しかなく、その間の結果を最優先するので、なかなか長期的な投資をしない傾向にあります。
しかし、この判断をしてしまったら2流の管理職、経営者になってしまいます。
何が抜けていたか?
それは
「投資をしなかった場合のリスクを性悪説(最悪ケース)の観点や、長期的な観点で考える」
ことが抜けていたと思います。
つまり、設備投資を提案・経営判断する時、
「この投資をしなかった場合、人間がミス・不正をしても、きちんと品質を担保でき、それが持続可能か?」
と考えていなかったように思います。
性善説で社内のシステムが成り立っていると、ここが抜け目になり、設備投資の判断能力が不足していたことが原因になったと考えられます。
1万人を超える従業員。
これだけ人がいると、悪いことを考えてしまう人間も一部は出てくるでしょう。
それを防ぐのはシステムです。
ここがターニングポイントになったのは間違いないと思います。
組織原因2:カンパニー制度のデメリットが顕在化
とある社員が「中小企業連合」と言ったとおり、
それぞれの事業部(カンパニー)がそれぞれの経営をしているのです。
これは日本の大企業でよくあるカンパニー制度です。
メリットは、それぞれの事業の環境に合わせてフレキシブルに動きやすいこと。
デメリットは、異なる事業部間での協働開発・情報共有がしにくくなること。
今回、神戸製鋼所はデメリットの影響を大きく受けてしまったのでしょう。
異なる事業部間で情報共有の場を設けたりして対策はしているそうですが、
担当者の努力でなんとかするしかないレベルだそうです。
なので、今回の事案を受けて、不正を起こしていない事業部の方は
「自部署であれば、こんなことが起こるなんてありえない」
とおっしゃっていました。
「複数ある工場の中で良いとこどりしたシステムを社内全体に標準化したらいいのに」
と思うことはできても、やるとなったらメンドくさい障害があるそうです・・・
組織原因3:信頼できない経営陣
神戸製鋼所は工場より本社の方が新しく、外装・内装・トイレどれもキレイで、食堂の食事も美味しいです。
しかし、経営陣・管理職は現場第一と言っています。
さて、それを現場で働いている人間からしたら、どう感じるでしょうか?
現場第一と言っているのに、現場より間接部門のための設備に投資を優先している姿を見て、どう感じるでしょうか?
まぁ、信用できなくなるでしょう。
言動と行動が一致していないのですから。
信用できない人間・組織の下で働いていたら、
多少ズルして迷惑かけても・・・
という気持ちが生まれてしまうかもしれません。
活かすべき教訓
活かすべき教訓は以下2つです。
「誠実な行動をする」
「システムに対する設備投資をしなかった場合のリスクを、性悪説(最悪ケース)の観点や、長期的な観点で考える」
場所や事業部、部署、上司が変われば、職場の体質・文化は結構変わります。
そんな中、企業全体に共通する体質・文化とは何か?
これは、企業全体の共通項である「経営者」と「会社のシステム」で決まるものだと思います。
そして、これを決めるのは経営者です。
また、経営者に具体的に提言しやすいのは、管理職・スタッフ・現場担当者です。
全員が当事者意識を持って取り組んでいけば、一部の人間のせいで大きな悪影響を及ぼすことはなくなるでしょう。